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つまり、彼女は死神が人間違いをして死へと導かれようとしてしまったらしい。そんなことってあるのか。間違いで死ぬなんて、勘弁してほしいものだ。
と、そこで時歪の出番らしい。
時を巻き戻して死神に人間違いだと伝えて彼女を助けるということだ。その任務に当たる後継者となったのが自分らしい。口の悪い時歪と小声で無表情の座敷童猫のアキとともに。栄三郎は、ずっとそうしてきたようだ。
その任務に当たる者に与えられた姓が『時守』だそうだ。まさか、時守家にそんな秘密があったとは知らなかった。ただ、そのことを知らされるのは時歪の時計を受け渡された者のみらしい。要するに父も母もまったく知らないということだ。もちろん、親戚たちも知らないのだろう。
そうそう栄三郎の家にいた忙しなく動き回っていた幽霊たちも、栄三郎が助けた者たちらしい。幽霊の依頼がほとんどだとか。例外もたまにあるというが、滅多にないから気にするなと言われた。だから、幽霊が見える自分が抜擢しれたということだ。
「さて、サッサと任務を終わらせようじゃないか。今回は簡単な任務だからな。初仕事にはもってこいだろう。時を巻き戻すぞ、いいな。心してかかれよ、阿呆」
――はい、はい。阿呆も頑張りますよ。ああ、完全に受け入れちまった。って、ちょっと待てよ。あの気持ち悪い状況になるってことか。うぅっ、来た。気持ちが悪い。
目の前の景色がグルグルと回り出す。眩暈じゃない。本当に歪んで渦に景色が吸い込まれていくような感じに。毎回、こんな状態になるのか。彰俊はギュッと瞼に力を入れて閉じて、気持ち悪い状況を回避しようとした。それでも、身体が揺れている。脳まで震えている気さえする。時を巻き戻すということは、いろんな反発を打破しなければいけないのだろう。本来、してはいけない行為なんだろうから。
いろんな思いを巡らせていたら、肩を軽く叩かれた。気づけば、身体の揺れは収まり景色はもとに戻っていた。
時が戻ったとは思えない。さっきまでいた場所だ。過去と言っても今回は数日しか巻き戻っていなそうだから、そう感じるのだろう。
ただ違うと言えることがひとつ。依頼人の彼女の姿がない。
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