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時歪とアキ、そして栄三郎と自分。肩を叩いたのはアキか。引き攣った笑みを浮かべている。無理に笑おうとしなくてもいいのに。怖いぞ、その顔。とは口が裂けても言えないが。
「依頼人の彼女は?」
「この時は生きているからここにはいない。そんなこともわからぬのか。ド阿呆」
――はい、そうですか。どうせ阿呆ですよ。
そのとき、アキが再び肩をポンポンと軽く叩き、引き攣った笑みをした。もしかして、慰めてくれているのか。ちょっと怖い顔だけど、優しい子だ。
「ありがとうな」と笑みを返すとまた怖い微笑みを浮かべた。この笑顔にも慣れなくては。
「彰俊、行くぞ」
栄三郎の声に彰俊は頷き、初仕事だと意気込んだ。
「アキ、頼むぞ」と栄三郎は言葉を続けた。
すると、目の前に突然両開きの扉が出現して軋みながら開き始めた。その扉を潜るとそこにはさっき出逢った彼女が歩いていた。学校の制服だろうか。どうやら彼女は高校生のようだ。彼女の背後には死神が近づいている。今まさに、人間違いで死の道を辿ろうとしているところだった。
「ちょっと待った」
彰俊は大声を張り上げて死神の肩に触れた。そのとたん、手が燃えるように熱くなり痺れて呻き声をあげてしまった。
「阿呆、死神に触る奴があるか」
手は焼けただれてしまい、想像を絶する痛みに顔を歪めていた。歯を食いしばって痛みに耐える。そこへアキが素早くやってくると、自分の手を包み込むように触れて何かをぶつぶつ念じた。不思議なことに焼けただれた手がもとに戻っていく。ケロイド状になっていた掌は、次第に元の皮膚に戻っていく。赤みもなくなり、完治してしまった。ものの数分で。いや数秒かもしれない。
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