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「彰俊、彰俊、起きなさい」
急に揺り起こされて、寝ぼけ眼で目の前にいる誰かを見つめた。
――なんだ、父さんか。
チラッと時計に目を向けると針は二時を少し回ったところを差していた。こんな時間になぜ起こすんだと思いつつ、重い瞼が閉じそうになる。
「こら、起きなさい」
「なに、どうかしたの?」
目を擦って父を見遣る。
「祖父ちゃんが亡くなったって連絡があったんだ」
「えっ……」
彰俊はガバッと上体を起して、「嘘でしょ」と父の肩を掴んだ。父はかぶりを振り「本当だ」と呟き、「すぐに祖父ちゃんの家に向かうから支度しなさい」と続けた。
そんなことって。
――さっきのは夢だったのか。そうなのか? 祖父ちゃんの幽霊が逢いに来たのだろうか。
ふと先程見た光景が頭に浮かぶ。まさかとは思うが、さっきのは現実だったんじゃないだろうかとも思える。なんて言っていただろうか。『とき』なんとかという時計だ。頭を捻って絞り出そうとするが、思い出せない。祖父と話したこととすべてが歪んでいく光景ははっきりしているのに、なぜだ。
――時守じゃないよな。うちは時守家だけど名前が刻まれていたわけじゃなかったと思う。
懐中時計の裏側に刻まれた文字は……。目を閉じて深呼吸をひとつ。すると、不思議なことに『時』と『歪』の文字が脳裏に蘇ってきた。
そうか、思い出した。
『時歪の時計』だ。
「おい、彰俊。早く支度しなさいと言ったはずだぞ。いつまでもベッドで何をしているんだ」
「あ、ごめん。すぐに着替えるから」
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