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父の運転する車で五時間かけて、祖父の住む家に着くと、すでに親戚一同が勢ぞろいしていた。
まだ朝の七時を回ったばかりだというのに、随分とみんな早いものだ。それに、みんなやけに慌ただしく動き回っている。いろいろと葬儀の準備をしているようだ。けど、そんなに動き回る必要なんかないと思うけど。葬儀屋さんに任せることになっているってさっき聞いたばかりだ。
しばらく様子を窺っていると違和感を覚えた。何かがおかしい。
首を捻りながらも彰俊はじっくりと動き回っている親戚を観察し続けた。大広間と呼べるかなり広い畳部屋に、疲れ切ったように座り込む親戚たち。いや、祖父の突然の死に気持ちが沈んでいるのだろう。そんな親戚と相反して、その周りを行ったり来たりと忙しなくしている親戚たち。どうみても、おかしい。
おや、向こう側が少し透けているような。
ああ、あいつらは幽霊だ。
いつものことだけど、生きている人間と幽霊との区別がつかなくて困るんだ。霊感が人並み外れて強いというのも疲れるもんだ。ひっきりなしに動き回っているほうが幽霊だった。
話しかけてくる幽霊もいた。
「まだ、栄三郎は奥に寝ているぞ」
「ふん、おまえには後継者の資質があるようだ」
「まったくもって忙しいったらありゃしない」
「栄三郎には世話になったな。お主も頑張れよ」
幽霊たちは勝手気ままに話しかけては通り過ぎていく。慣れとは恐ろしいものだ。まったく怖いという感情が湧いてこない。おそらく、この家のご先祖様たちなんだろうと納得した。それにしても、何がそんなに忙しいんだか。
祖父の栄三郎の遺体がまだ家の奥の部屋に寝かされているらしい。行った方がいいだろうか。
行こうか行くまいか迷っていたら、父が「祖父ちゃんに逢いにいこうか」と声をかけてきた。異存はない。
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