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真っ白な布団に寝かされた栄三郎は顔に白い布をかけられている。
なんとなくむくっと起き上がってきそうな気がする。そんなことはありえないけど、亡くなったなんていまだに思えない。実感がない。夢で逢ったせいかもしれない。夢じゃないかもしれないけど。
白い布を取って栄三郎の顔をじっと見る父は、頬を涙で濡らしていた。突然過ぎる死に、父もいろんな思いが込み上げているのだろう。そんな父の思いに触れて、なんだか目頭が熱くなってくる。父は俯いて涙していた。そのとき、栄三郎が笑みを浮かべた気がしてドキッと心臓が揺れた。
死人が笑うわけがない。
――もしかして祖父ちゃん、いるのか。
部屋のあちこちに目だけ動かして気配を探りつつ、心の中で彰俊は呼びかけてみる。
「もちろんいるぞ。時歪の時計を渡さなきゃいけないからな」
今のは、栄三郎の声だ。どこだ、どこにいる。
時歪の時計って、もしかして。やはりあれは夢じゃないのだろうか。現実にあったことなんだろうか。そうかもしれない。彰俊は懐中時計が脳裏に浮かんだ。
――時歪の時計か。時を巻き戻す時計だったよな。
あっ……。
栄三郎が部屋の入り口に立っていた。けど、布団にも横になっている。彰俊は交互にふたりの栄三郎を見遣る。何度目か入り口に目を向けたとき「わしは幽霊だ。はっはっは」と物凄く楽しそうに笑んでいた。そりゃそうだ。わかっているさ。けど、なんか不思議だ。
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