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「彰俊よ、ついておいで」
「でも」
「んっ、何か言ったか」
父がこっちに振り向き問い掛けてきた。
「あ、なんでもないよ。そうだ、俺ちょっと庭の方行ってみたいんだけどいいかな」
「ああ、それは構わない。行ってきなさい」
彰俊は頷き、祖父の待つ庭へと足を踏み出した。
なんだか変な感じだ。祖父の栄三郎はすでに亡くなっているのにの話せるのだから。こういうとき、霊感があってよかったと思う。これは自分だけの特権だ。
「蔵まで来てくれ。そこに時歪はある」
彰俊は「蔵かぁ。昔、勝手に入って怒られたっけ」と頬を緩ませ栄三郎に顔を向けた。
「そんなこともあったな。懐かしいものだ。が、もうそんなこともなくなってしまうんだな。もっとおまえに伝えたいことがあったんだが」
「今、話してくれればいいじゃないか。っていうか、俺は幽霊が見えるんだから、いつだって話せるよ」
「はっはっは。そうだな。でもな、わしはいずれあの世に旅立たねばいけないからな。そんな簡単に逢えなくなってしまうんだよ。それがこの世とあの世の理だ」
――逢えないくなるのか。
なんだか胸が痛い。
「おいおい、そんなに落ち込まなくても。すぐにいなくなるってわけじゃない。おまえが一人前になるまではいるから気にするな」
――それって、俺がまだ一人前じゃないってことか。否定はできないけど。
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