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蔵の前に来ると、なんとなく肌寒く感じた。何か背筋もゾクゾクする。
「ほれ、行くぞ」
栄三郎はスッと蔵の中に消えてしまう。
「ちょっと、祖父ちゃん。扉開けてもらわないと入れないよ」
扉を叩き、中に声をかける。すると、閉ざされた扉からにゅっと顔だけ飛び出してきて、思わず仰け反って尻餅をついてしまった。
「あはは、すまん。ちょっと待っていろよ」
顔が引っ込み、軋む音をたてながら扉が少しずつ開き始めた。扉が開いた瞬間、なんとも言えない古い書物と思われる臭いが鼻についた。けど、すぐにそんな嫌な感じじゃなくなっていく。不思議とワクワクしてきた。あまり見られない物がこの蔵には存在するはずだ。ガラクタも紛れているだろうけど、高価な値打ちものもあるはずだ。
「彰俊、良からぬことを考えるんじゃないぞ。ここにある物は、付喪神と化しているものが多いからな。つまり年代ものの価値あるものが多いということだ。気を付けて扱わなくてはいけないぞ。そこのところを肝に銘じろよ」
「はい」
それしか、言えなかった。もう中のものに興味津々でどれから見ていいのか迷うくらいだったから。
「彰俊、ほら受け取れ。他のものには手を触れるんじゃないぞ。危険も孕んでいるからな。下手をすると命を取られるぞ」
――命を取られる……。確かに、ちょっとだけ嫌な気も感じる。俺のことを快く思っていない者もいるかもしれない。気を付けなきゃな。
ブルッと身体を震わせ、手渡された物に目をやる。夢で見た懐中時計そのものだった。
裏側にも『時歪』とある。間違いない。
これが時間を巻き戻す時計なのか。本当に。
「祖父ちゃん――」
あれ、ここは。
気づくと蔵の外に出ていた。しかも栄三郎の姿はどこにもなく、生ぬるい風が頬を撫でるように通り過ぎるとともに「またな」との声を耳にした。
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