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祖父の葬儀はしめやかに執り行われ、彰俊と両親は家に帰宅した。
栄三郎はあれから姿を見せていない。そのかわり、時歪の時計が手元にある。
時を巻き戻せるだなんて、なんて夢のような代物だ。頭に浮かんできたものは、『ロトセブン』だった。当たり番号がわかって過去へ行き、その番号を買えば大金持ちだ。思わずにやけてしまう。
そのとき、どこからか罵声が飛んできた。
「ド阿呆。そんなしょうもないことにおいらを使うな。まったく人間ときたら」
「だ、誰だ?」
「誰だってぇ。おいらだよ、トキヒズミだよ」
時歪だって。と、懐中時計に目を向ける。いつの間にか手足が生えて胡坐をかき、腕組みして憤怒の表情を浮かべていた。
あまりにも突然のことに、口をあんぐり開けて固まってしまった。そういえば、付喪神と化しているって話していた。幽霊は見慣れているが、付喪神を見るのは初めてだ。
こんな存在がこの世の中にあるなんて。所謂、物の怪って奴だ。正直、作り話だとばかり思っていたが、いるもんなんだなと感心してしまった。
「おい、何だんまり決め込んでいる。ロトセブンだぁ。要するに宝くじだろう。それで大金持ちになんてことにおいらは絶対に手を貸さないからな。覚えておけ。ド阿呆が」
――こいつ人の心も読めるのか。いや、そんなことはないだろう。
「あのさ、なんでロトセブンのこと考えているってわかったんだよ」
「おまえは本当に阿呆だな。その口で呟いておったではないか」
えっ、そうだったか。彰俊は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。付喪神に説教されるとは思わなかった。流石、『神』とつくだけはある。ちょっと口は悪い気もするが、不埒な考えをした自分が悪いんだから仕方がないか。
「申し訳ない、反省します」
「ふむ、素直でよろしい。で、栄三郎の後釜はおまえなのだな」
「後釜って。俺はただ貰っただけだぞ」
「なんだ、聞かされていないのか。栄三郎も手抜きしおったな。まあいい。おいらがおまえの手元にあるという事実からして、おまえが後釜だ。心してかかれよ。そのうち、おまえを手助けする者もやってくるであろう。あ、そうそうおいらのことはトキヒズミと呼ぶがいい」
いったい何を言っているのだろうか。
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