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「お兄ちゃん、気持ち悪い」
夕飯を食べている最中のことだ。妹のユリアにそんなことを言われた。
長い銀髪をサイドテールで纏め、真紅の瞳を煌めかせた妹に、あどけなさの残る真顔で。
「いや、それだとぼくが気持ち悪いみたいだろうが」
「だから、そう言ってるんだけど」
「は? いやいや、ちょっと待てよ落ち着けクールに行こうぜ。誰が気持ち悪いって?」
「お兄ちゃん」
……おかしい。本当にぼくの妹かこいつ。
「大丈夫か? おまえ」
「大丈夫じゃないのはお兄ちゃんでしょ、どう考えても」
「? なにがだよ」
「ちょっと自分のやってることを改めて認識したほうがいいと思う」
「妹にあーんしてるだけだろ。どこかおかしなところがあったか?」
答えると、ユリアは僅かに顔を引き攣らせて、
「それが気持ち悪いって言ってるの……」
× × × ×
とうとうぼくの妹にも反抗期というやつが訪れたらしい。くそっ、どうなってやがる。つい先日まではあんなにべったりだったのに!
「それは妄想だよ、お兄ちゃん……。結構前からこんな感じだよ。ていうか、お兄ちゃんが気持ち悪過ぎて風邪になったんじゃないかな私。だから早く出てって」
ユリアはにっこりと微笑みながら鬼のようなことを言う。
風邪になったのはぼくのせいじゃねぇよ、絶対。ぼくの気持ち悪さと風邪の原因にはなんの因果もねぇよ。ていうか、そもそも気持ち悪くねぇよ!
「お……お兄ちゃんが、気持ち悪くなかったら、むしろ気持ち悪いよ? だから早く出てって」
「八方塞がりじゃねぇか!」
「まだ二方だよ、諦めるには気持ち悪いよ。だから、早く出てって?」
「なんだよ、諦めるには気持ち悪いって! つーか、さっきから出てけ出てけうるせぇよ!」
「一番うるさいのはお兄ちゃんだよ……病人の部屋で騒ぐとかうるさい通り越して気持ち悪いよ。だから、早く、出てけ……けほっ」
どんだけぼくを気持ち悪いことにしたいんだこいつ……。
「ったく、黙って寝とけっつの。妹の看病はお兄ちゃんの仕事だ」
「お兄ちゃんの前で寝るとか無理だよ、怖いよ……貞操の危機を感じざるを得ないよ」
「お前はぼくをどんな変態だと思ってんだよ……むしろお兄ちゃんが怖いよ」
「妹の寝込みを襲……」
「――わねぇよ!? 風評被害も甚だしいよ!」
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