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「え? 襲わないの?」 「なんで驚いてんだよ……。襲われないことに驚くとか先鋭的過ぎて時代が着いてこねぇよ」 「はぁっ……もう、本当に寝るから、変なことしたら――殺す」 「しねぇよ」  目を閉じ、大人しくなったユリアを横目に、家を出る。と、視界一杯に自然が飛び込んでくる。ぼくたちの家は森の中にぽつりと建てられている。  向かう先は森を抜けた先にある村。薬を買いに行くのだ。 「いい加減、信用してもらえねぇもんかなぁ」  文句を垂れつつも森を抜けて村に入る。  飛んできたのは奇異なものを見るような視線。銀髪という特定の種族の特徴を有する者に対しての恐れ。  そう、ぼくは――ぼくたちは、人間ではない。 「あ、ジークさん! いらっしゃいませ!」  そんな中でも、友好的に接してくれる人というのは存在する。村で唯一の薬剤師兼医師である彼女――イレーネもその一人だ。  正直、村人が物を売ってくれないということも少なくないため、非常に助かっている。誰に対しても優しくできる彼女のことをぼくは少なからず好意的に思っているけれど、種族の壁はそうやすやすと乗り越えられるほど低くない。 「今日はなにをお求めですか?」 「ユリアが熱を出しちゃってさ。多分、風邪だと思うんだけど」 「へぇ、風邪なんて引くんですね」  言い切った後、イレーネはなにかに気づいたような顔になり、慌てて手を忙しなく胸の前で動かす。 「い、いえ、今のは別に馬鹿にしてるというわけではなくてですね!」 「ああ、いや、気にしてないよ。風邪なんて、引いたことないしね」  それだけ免疫が低下してしまっている、ということか。ユリアが風邪で苦しむことを嬉しいとは思わないが、でも―― 「こっちでは、これが普通なんだろ? ぼくたちだって風邪を引く。怯える必要なんてなにもないんだって、宣伝しといてくれよ」  ぼくが笑って言うと、イレーネも笑顔を浮かべ勢いよく頷く。 「ええ、任せてください!」  ともあれ、風邪薬を処方してもらい帰宅する。 「ほーら、お前の大好きな風邪薬だぞー」 「やめて、お兄ちゃん。気持ち悪い」  なんだこいつ、可愛くねぇ……。長い道程を経て風邪薬を買ってきてくれたお兄ちゃんをぴしゃりだよ。むしろ、えげつねぇ。
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