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「三十分掛かるかどうかの距離でしょ……義務よ、義務」
「はあ、はいはい。なんでもいいから、早く飲んで寝ろよ。ほら」
「うん。だから、早く出てって? なんで当たり前のように脇に座るの……?」
ゴミに向けるような視線を容赦なく浴びせてくる。それ絶対実の兄に向けちゃダメなやつだろ、おい。我が妹ながら、末恐ろしいっつーか、現在進行形で恐ろしい。
「なにかあったら困んだろうが」
「そのときは呼ぶから……本当に辛いの。早く出てって」
「辛いなら尚更だろ」
「もう、感染ったら……困るから、出てけって言ってるの」
素直に驚いた。まさか、こいつにまだ兄を労る気持ちが残っていたとは……。そんなことに驚いてしまうという事実に悲しくなってくる。
「私、お兄ちゃんの看病とか絶対に嫌だからね」
渾身の右ストレートだった。
× × × ×
「まだ辛いのか?」
「うん……、むしろ昨日より悪化してるかも」
もはや毒を吐く気力もないといった様子で、ユリアはだるそうに首だけをこちらに向ける。もう今更だけど、感染ったら嫌だなぁ、これ。看病してくれないらしいし。
「とりあえず薬買ってくるから、大人しく寝とけ」
「……うん」
風邪。なんて恐ろしい病気なんだ……ユリアをここまで弱体化させるとか、風邪さん強過ぎ。あいつ本気出したらドラゴンとか張り倒すからな。
「いやいやいや……だからって出て来ねぇだろ、普通」
遠くの空、いや、もう間近にまで迫っている巨大な影。とは言っても、今からでも逃げるのには遅くない。早いとこイレーネを連れて逃げよう。
「イレーネッ! いるか?」
「は、はいっ? あ、ジークさん……どうしたんですか? そんなに慌てて」
「落ち着いて聞いてくれ。……ドラゴンがすぐそこまで来てる」
「ドラゴン? ……えぇっ!? ど、どど! どうしましょう!」
「落ち着け、やる事は一つだ。逃げる、ただそれだけ」
「逃げる……」
「そうだ、よし行こう」
玄関を出たイレーネを抱える。
「え、えっ? ええっ? ジークさんっ!?」
「きみの速さじゃとても逃げ切れない。じっとしててくれ」
地面を思い切り蹴り上げ、全力で走り出す。しかし、数分と経たないうちに止まることになった。
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