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「おとなしくしてないと、落ちるよ」 「いいです! 落としてくださいっ! 私は行かなきゃいけないんです!」 「どうしてそんなに執着するんだ。あいつらに助ける価値があるとは思えない」 「――っ!」  ぱんっと乾いた音が鳴った。頬からひりひりとした痛みが伝わってきて、ようやく叩かれたのだと気づく。呆然としていると、イレーネはぼくの腕から転がり落ち、立ち上がった。  目尻には涙が浮かんでいるが、その表情は悲哀というより激怒に近い。 「どうしたんだよ、急に」 「――この世に、価値のない命なんてありませんっ!」  続け様に、イレーネは言葉を発する。 「ジークさんにとっては、確かに嫌な人たちかもしれません……でも、私にとっては、家族のような人たちなんです。悪気はなかったなんて言えませんけど、許してくださいなんて、言えませんけど……っ、でもっ、私は助けたいんですっ……!」 「言ったはずだ。もう間に合わないって」 「それでも、ですっ! 怪我をしたなら治せばいい。私は医者ですよ? 私がしているのは、命を救う仕事なんです……っ! 一人でもいいっ! 助けられる可能性があるのなら、見捨てていいわけ、ないじゃないですか……っ!」 「それできみが死んだら本末転倒だろ。きみに死んでもらっちゃ困るんだよ」 「なら、ジークさんが私を守ってくれればいいんです」  無茶苦茶だ……。 「ぼくじゃ勝てない。風邪を引くくらい弱体化してるんだ。今のぼくはちょっと身体能力が高い人間だよ。ドラゴンからきみを守り切る自信なんてない」 「弱体化……してなければ、倒せるんですか」 「……それは、出来ない。ユリアと約束したんだ、普通の人間になるって」  あの日、両親が同族に殺されたときに。化物に戻るつもりはない。怪物はもういないんだ。ようやく、ここまで弱体化出来たんだ。それを……こんなことのために。 「ジークさんなら、そのままでも……」 「いいわけないだろ……っ。今の状態でも嘲笑の的なんだ。戻ったら、誰も受け入れてくれなくなる」 「――私が、います」 「きみ一人でどうしろって言うんだ」 「私は、ジークさんが優しいこと、ちゃんと知ってますよ。ユリアちゃんのためならなんでもやってしまえることも知ってます。それでも、ダメ、ですか?」 「……無理だ。だって、無理だろ、そんなの」
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