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「竜さんと未来さんも、ありがとうございました!」
「俺は、所長から命令された──」
「竜さん」
向き直り、礼儀正しく深々と頭を下げたのに、無下にしようとするなんて。その思いは私だけではなかった。
「竜さん、お礼ぐらい素直に受けなよ」
「悪いもんじゃないでしょ」
モジャ男さんと恵莉華さんの言葉を受け、竜さんは席を立った。
怒って席を外した、わけではない。
「待ってろ」
と子供たちに言い残し、キッチンへと向かったのだ。その行動に、私たちは顔を見合わせ、笑った。
「そう言えば、朝から作ってたもんね」
竜さんがキッチンから戻ってくる。ショートケーキの、ホールケーキを抱えて。
「お礼の、礼だ」
子供たちの顔が、眩しいほどに輝いた。竜さんの口元も、嬉しそうに綻んでいる。
入れ違いに、私はキッチンへ向かった。やかんに水を入れ沸騰させている間に、子供たちのジュースを注ぎ、運ぶ。
ダイニングテーブルは、上座に所長さん、縦に子供たち三人と座り、その正面で竜さんがケーキを切り分け、下座にモジャ男さんと恵莉華さんが窮屈そうに並んでいた。
椅子が足りず、モジャ男さんと恵莉華さんは事務椅子の高さを調整して、代用している。
が、椅子なんか多分、座れたら何でもいいのだ。
今大事なのは、みんなでわいわいとケーキを食べることなのだから。
日常へと戻った子供たちと、五十嵐探偵事務所の探偵たちで。
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