7/21
354人が本棚に入れています
本棚に追加
/436ページ
短く、かつ決意を込めた息を、竜さんが吐く。眼光が鋭く、妖しく光った。 次の瞬間、白い囲いに、容赦なく蹴りを食らわせた。ガンッ、ガンッ、と何発も。 出入り口はスライド式なのにお構いなしに蹴り、歪み、派手な音とともに倒れる。 乗り込む、という言葉がぴったり当てはまる動作だった。 白い囲いの奥──工事現場の中には、十数人の作業服を着た男性たちがいた。 誰もが突然の事態に目を丸くし、言葉を失っている。構わず、躊躇なく、竜さんが踏み込む──もとい乗り込む。 続く所長さんの背に隠れるように動向を窺う。闖入者の姿形を認識し、我に返った一人が吠えた。 「だ──誰じゃコラァ!」 「うるせぇ」 耳をつんざくような怒声にも、竜さんは動じない。平然としている。 猛然とし始めたのは、作業員の方たちだった。最初の人に続けとばかりに、一斉にわめき散らす。 「てめぇら何者だぁ!」 「ここがどこかわかってんのかあっ!」 「てめぇ、そんなことしてただで帰れると思うなよ!」 「──まぁ、待て」 怒声だけで竦み、所長さんの背中に顔を押し付けていて恐怖を誤魔化していた私は、割り込んだ静かな口調に、恐る恐る顔を動かした。 吠える人たちの口を一瞬でつぐませることができる人は、この工事現場で私が、考えられる人は一人だけ。 所長さんの言う、組織の幹部の人。そして、殺人の実行犯。だけど、違和感があった。人を殺すことを厭わない人にしては冷静で、理知的ですらあった。
/436ページ

最初のコメントを投稿しよう!