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その人は、この場には不似合いなほど、濃紺のスーツを着ていた。その人は、作業服の人たちを後ろに従わせ、微笑を浮かべていた。 背筋が寒くなるほどの、気味の悪い微笑を。 「どちら様ですか?ここは、関係者以外立ち入り禁止ですよ」 理知的なのに、感情がない。まるで、機械が文章を読み上げているかのような。 ──怖い。怒声よりも、何倍も。理性を抑え、偽ってるのだろうが、醸し出している雰囲気は鋭利で、刺々しい。 対峙しただけで、戦意が喪失してしまう恐ろしさがある。なのに、それを物ともせず、竜さんが一歩二歩、進み出た。 「俺たちは探偵だ」 「探偵?」 「依頼を受けて、ここにいる」 「はぁ……誰かと思えば」 露骨な、溜め息。まるで、相手にならないと暗に吐き出したような。 「人の秘密を好き好んで暴く悪趣味な人たちですか。タチが悪いですよ。もしかして、ここを標的に?」 「……」 「まぁ、そうでなきゃ来ませんよね。依頼、と仰いましたが、依頼人はどちら様?」 「言うわけねぇだろ」 「だと思いました。別にいいんですけどね。もう知ってますから」 口の端が、ニヤッと上がる。たったそれだけの仕草なのに、神経を逆撫でされた不快感が襲ってきた。 その人の微笑が一際輝く──いや、気味悪くなる。
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