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「最っ低!」 私の罵声で、笑みが消えた。その人が、首を正面に戻す。 そこに、表情がなかった。無表情ですらない、正気を感じさせない、無。 「お嬢さん。俺たちはな、金と面子のためならなんだってするんだ。人殺しだろうが、くそガキの始末だろうが」 低く、ドスの利いた声。理知的な仮面を脱ぎ去った、本性。 視線が、態度が、雰囲気が、鋭利な刃物へと変貌した。許されない言葉を発したのに、口が動かない。 全身が動かない。凍えるほどの、呼吸を忘れるほどの、絶対的な恐怖が、その人の全身から、侵食するように放されている。 「サツに駆け込んで、何もなかった、で叱られたんだからそこで終わっとけばいいものを。見間違いだったで済むだろ。それをわざわざ探偵なんかに依頼しやがって。自業自得なんだよ、って伝えとけ」 探偵事務所に依頼したことを知っていたということは、子供たちが目撃した時からずっと、後をつけていたということか。 捜査してる時も、気配を殺して近くにいたのだろう。怖い、と素直に思う。 「断る」 「お前らさぁ、こっちが下手に出てたらいい気になりやがって。こっちは囲いを一枚壊されてんだよ。それを許してやるから帰れって言ってんだよ」 「俺らは、話し合いで解決しに来たわけじゃ──ねぇ!」 竜さんが歩く。早歩きから速度を上げ、走ってその人の眼前に飛び込むやいなや、拳を飛ばした。唐突なそれにも、その人は咄嗟に上半身を後ろへ反らした。
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