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「ありがとうございました!」 所長さんのデスクの前で、元気いっぱいに頭を下げたのは、安逹篤人くん、平野涼くん。 そして、相馬悠貴くんの三人だ。 あの日の工事現場での着信は、悠貴くんの容体を知らせるものだった。命の危機は脱した、という歓喜の知らせを。 中でもその感情が大きかったのは、やはりと言うべきか、予想外と言うべきか、竜さんだった。 所長さんから告げられ目を見開き、喜びを露にし、「よかった、ほんとによかった」と何度も胸を撫で下ろしていた。 本田さんもそんな姿に声をかけづらくなったのか、おかげで正当だの過剰だのという話はうやむやに終わった。 正当、過剰を名前だけしか知らなかった私は、後で桐生さんに訊いて驚いた。 格闘技の心得がある人が、命の危機があるといっても、正当防衛を越えて過剰防衛になってしまう恐れがあるらしい。 過剰防衛では、逮捕される。危うく竜さんは逮捕されるところだったのだ。 そんな非常事態を消失させてくれたことでも、着信は喜ばしいものだった。 だけど、命の危機はなくなっても、意識を取り戻したわけではない。それから三日間、悠貴くんは目を開けなかった。 私たちは毎日、彼が入院してる病院に行き、彼の回復を待った。目を覚ました時は、誰もが手放しで喜んだ。 もちろん竜さんも。それでもまだ、完全に回復したわけではなく、悠貴くんの入院は続いた。そして数週間後の今日、晴れて退院となり、三人で探偵事務所を訪れてきたのだ。
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