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午前中で退院したらしいが、誰も行ってない。この時がくると、竜さんが予測していたから。 お礼を言いに。病院の前だと興醒めだ、と竜さんは嬉しそうに笑っていた。 「これ、依頼料です」 ペチン、と小気味いい音を立てて、木製デスクに五百円硬貨が三枚置かれる。 所長さんはそれに目を落とし、口元を緩めた。 「確かに、受け取った」 依頼、終了。子供たちにとってそれは、非日常から、日常に戻る瞬間だ。 お巡りさんに対する汚名も返上できた。あの時間は、きっと忘れられない。 彼らにイタズラだと一蹴したお巡りさんは、悠貴くんが入院してる間に、篤人くんと涼くんが見舞いに訪れてる時に──もちろん私たちもいた──何と、病院に現れた。 そして、平身低頭で謝り始めたのだ。何度も、「すまなかった」と謝り続ける彼に、子供たちも私たちも目を見開き驚いた。 なぜ彼が病院に来て、謝ることをしたのか。それは、桐生さんの計らいだった。 「彼らに真摯に対応していたら、怪我をさせてしまうことはなかっただろう。真実を見過ごした、我々の過失だ」 と、桐生さんも一緒になって、頭を下げていた。子供たちは返す言葉が見当たらないためと、五十嵐探偵の探偵たちが何かを言うのは野暮だ。 数分、重苦しい沈黙が病室を包んでしまったけれど、それを破ったのは、悠貴くんだった。 命の危機に陥った遠因といっても過言ではないのに、人見知りの彼は笑みを浮かべ言ったのだ。
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