エピローグ

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 4月に、葵は5歳になった。  結局、現役選手としての自分の姿を小学生の葵に見せてやることはできなかった。  葵が年齢を重ね、大人になったとき、自分の現役時代のことを記憶に留めているかどうか、いまはわからない。  しかし、たとえそうでなかったとしても下嶋に後悔はなかった。  フォワードとして現役を終えたことを、今後の長い人生で悔いることはないだろうという確信があった。  21歳でワールドカップに出場した下嶋を時貞が見たのは5歳のときだった。  そしていま、同じく21歳でワールドカップに臨まんとする時貞のプレーを、5歳になった葵が目を輝かせて待っている。  自分がしてやりたい。  以前はそう思っていた。  それしかないと思っていた。  それは自分にとっての逃げでもあった。  しかし、そうすることだけがすべてではなかった。  彼らがきっと葵に伝えてくれる。  いや、葵だけではない。  葵と同じように試合開始をいまかいまかと待ち望むすべての子どもたちに、彼らがきっと伝えてくれる。  そうやって受け継がれていく。  そうやって未来はつくられていく。  下嶋は、柔らかな髪に包まれた葵の頭をそっと撫でた。 〈了〉
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