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「どうしましょう」
宮内が声を掛けてきた。
下嶋は思考をフル回転させた。
谷城は武本に最終ラインを3人で組めと言った。
しかし、それはあまりにリスクが大きすぎた。大阪のスリートップを3人で見なければならないのだ。
であるならば、石川を最終ラインに下げるとともに、自分もひとつポジションを下げた4・4・1にするのが妥当だった。
ワントップであっても時貞なら十分にやれる。
下嶋は監督の意図を確認すべくベンチの方を見た。
バックスタンドに近い位置からはかなり遠くなる。
オルチャクはコーチングエリアぎりぎりのところに立っていた。
右手を掲げ3本指を立てている。
スリーバック――。
それが監督の指示だった。全員がそれを理解した。
「最終ラインの前はおれが見ます」
石川が力強く切り出した。
いいものを持っているが気が弱い。
ユースから上がってきたばかりの石川はそう言われていた。
このシーズン、遠征時は常に石川と時貞は同室だった。ある意味で、時貞と一番長く時間を過ごしている。
ふたりの関係がいまはどうなっているか詳しくは知らない。
それでも、10ヵ月前のひ弱な印象は、いまはもうなかった。
「おれと青木が宮内をフォローします」
山井が言うと、青木がうなずいた。
石川が最終ラインの前に磔にされるであろうことを考えれば、両サイドの山井と青木にはこれまで以上の運動量が要求される。
「だから裕二さんはそのまま颯人とトップにいてください」
彼らのすべての覚悟を飲み込み、下嶋は首を縦に振った。
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