第5章

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 大阪のコーナーキックを那珂川がキャッチした。  すぐにリスタートはしない。フィールドプレーヤーが新たな決め事を整理する時間をつくる。  大阪はこの試合に引き分けても優勝を決められる。  あくまでリーグ3連覇を念頭に置くならば、引いて守りを固めてカウンターを狙うのが定石だった。  しかし、大阪にその気配はまったくなかった。  これこそは、結果が出ない時代においてもその攻撃姿勢を崩さなかった彼らの誇りでもあった。  相手のフェルニーナ千葉は10人になった。  優勝するには勝利しかないとはいえ、ディフェンスをそのまま削り、ツートップを維持してきた。  大阪はここで逃げるわけにはいかなかった。  この試合で千葉を捻じ伏せてこそ、リーグ3連覇は彼らにとって初めて意味を持つものだった。  五右衛門――。  短い時間の間に何度となくその名がコールされた。  石川は獅子奮迅の働きを見せていた。  玉利、武本、仲藤の3人で組む最終ラインの前で、大阪の攻撃にことごとく網を張った。  千葉のボールが回り始めた。  選手をひとり欠いたことが、千葉にシンプルな思考をもたらした。  プレーの選択肢が減ったことが逆に、個々の選手のより早い判断を引き出した。  左サイドから山井が、右サイドから青木が積極的に中に切り込んでくる。  そしてボールを失えば一転、本来の持ち場に戻ってボールを追った。  中央やや左から下嶋はミドルシュートを放った。  大阪のゴールキーパーが横に跳んで正確にボールをキャッチした。  直後、中央でボールを受けたロンハルジッチが反転してシュートを放った。  那珂川が前に弾いたボールを飛び込むように抱え込む。  歯ぎしりをするような展開が続いていた。  上の歯か、下の歯か。  どちらかが少しでも力を緩めようものなら一気に噛み砕かれてしまうような攻防が繰り返された。
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