第5章

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 左サイドで山井の足がもつれた。  いったん中でボールを受けた沖田は、石川を外すと再び左サイドに送ってきた。  玉利が釣り出される。2対1の状況をつくられた。  玉利が外された。  エンドラインぎりぎりのところで右ウイングがフリーでボールを持った。  その眼前を影が通過した。  時貞だった。  危機をいち早く察知し、最前線から最後尾まできていた。  スライディングした足に当たったボールがスタンドに吸い込まれていく。  玉利と時貞がどちらからともなく抱き合った。  相手の体をへし折ってしまいそうなほど強く、そしてふたりともなにかを叫んでいる。    残り時間は2分を切っていた。 「裕二さん」  駆け寄ってきた時貞が荒い息遣いのまま言った。  続けた言葉に下嶋はうなずいた。  大声を出して玉利を振り向かせ、手振りで指示を送る。玉利も理解したようだ。  大阪のコーナーキックを那珂川がパンチングでクリアした。  それを宮内が収める。  寄ってきた青木にはたいた。 「ゴーッ!」  下嶋の合図とともに左サイドから玉利が走り出した。  強引に上体を傾けて前への推進力をつくっている。  千葉が最終ラインを押し上げた。  フォーバックになっていた。  左から下嶋、武本、仲藤、そして時貞。  中盤の4人は変わらず。  トップの位置には玉利が入る。
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