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前回大会で出場を逃していた日本は、2大会ぶりにワールドカップ本大会出場を決めていた。初戦の相手は南米予選を2位で通過したコロンビアだった。
スタジオが騒がしくなった。アンカーが興奮を滲ませながら短く言葉を発すると映像が切り替わった。
「出てきたー」
葵が身を乗り出して画面を指さした。
選手を捉えた画像が次々と切り替わっていく。美弥子が隣に座った。
「ハヤトだー」
背番号9。
エースナンバーを着けた時貞が映し出された。
16年前に自分が着けていた番号。気合いの乗ったいい表情をしていた。
その後も画面は切り替わっていく。
「ケンスケー」
葵が再び声高らかに名を呼んだ。
「健介君、ちょっと緊張してるみたいね」
「そうだな」
下嶋は頬を緩ませた。
2年前に初めて代表に招集された玉利は、アジア予選を終える頃にはスタメンに名を連ねるようになっていた。
おそらくこの試合でもスタメンでプレーするだろう。
それでも初めてのワールドカップに本人は相当緊張しているようで、つい2日前にも内容があるようなないような電話があったばかりだった。
画面が再び切り替わった。
「ゴエモーン」
石川のバストアップが映し出された。
最終ラインの前で独特の嗅覚を発揮する石川は半年前に招集されたばかりだったが、最終メンバーに滑り込んだ。
レギュラーを奪ったわけではないが、ここ一番の勝負所で切るジョーカーとしてその存在を捉えるマスコミも少なくなかった。
「よかったの? 本当にいかなくて」
美弥子が訊いてきた。
「本当は現地で観たかったんじゃない? 解説の仕事のオファーもあったんでしょ」
「まあな」
3人のプレーを現地で観たいという気持ちは確かにあった。
実際にこの試合を中継するテレビ局から現地での解説をお願いできないかという話ももらっていた。今後のことを考えれば、引き受けた方がよかっただろう。
それでも下嶋は、日本で、こうして家族3人でこの試合を観ることを選んだ。
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