プロサッカー小説「フットボールソウル」 プロローグ

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 二度、跳ね返されてきた壁だった。  ワールドカップ決勝トーナメント1回戦。  日本代表は、時に蛇に睨まれた蛙のごとく、この舞台で失速を繰り返してきた。  歴史は繰り返す。そう言われる。しかし、本質的に歴史は変わるものでもある。  歴史が変わる。  振り返ってみればそれは、なぜそれまで足踏みしていたのかが不思議に思えるほどあっけなかったりもする。  日本代表は、新たな歴史の1ページを刻んだ。  相手はウルグアイだった。草創期のワールドカップを二度制している。かつての勢いを取り戻せてはいないものの、ブラジル、アルゼンチンといった強国に立ち向かうべく、素早くボールを動かし、少ない人数でゴールを陥れるカウンター戦術を磨いてきた。世界的に優れたフォワードを生み続ける土壌があった。  この一癖も二癖もある難敵を、日本代表は2対0で下した。いずれも、エースと呼ばれる男が挙げたゴールだった。  準々決勝の相手は、世界ランキング3位のフランスだった。  フランスにとって、日本は因縁の相手でもあった。  両者は1年前に親善試合で顔を合わせている。このとき、フランスは苦杯を嘗めさせられている。彼らにとっては、雪辱の絶好の機会でもあった。  試合は、序盤からフランスが攻勢をかけた。前半30分までに2点を奪い、試合を折り返した。  後半、日本が反撃に転じた。後半8分にエースが1点を返した。その5分後、フランスが突き放す。しかし、日本は喰らいついた尻尾を離さなかった。24分に2点目を奪うと、39分、ついに同点に追いついた。  試合は延長戦に突入した。  先に音を上げたのはフランスだった。日本の持ち味である俊敏さ、持久力、勤勉性が、二度目のワードカップ制覇を狙うチームに亀裂を生じさせた。わずかな判断の遅れ、ほんの少しのボールコントールのずれに、疲労が滲んでいた。  延長後半9分、ついに日本がひっくり返した。  勝ち越しゴールを奪ったのは、その背に誰よりも多くの期待を背負った男だった。  この勝利に、日本は沸いた。  その夜、渋谷のスクランブル交差点をはじめ、銀座、池袋、大阪、福岡、札幌などの主だった交差点が人で溢れた。かねてより警察はワールドカップの日本戦の後にスクランブル交差点への立ち入りを禁止していたが、次戦に向けて警備体制の見直しを余儀なくされた。  日本はベストフォーに進出した。
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