第1章

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 Z1リーグはここ3シーズン、4強時代が続いていた。かつては群雄割拠の時代が続いていたが、現在は大阪スリーアングレイファーズ、三河ビオバネーラ、福島SFC、ローデン熊本の4チームが覇権を争っていた。  日本サッカーにはZ1リーグ、リーグカップ、天皇杯という3大タイトルがあるが、それらすべてはここ3シーズン、この4チームに独占されていた。    下嶋もZリーグ復帰後に一度天皇杯を制したことがあるが、それは4年も前のことだった。にもかかわらず、なぜ、時貞はリーグ中位が定位置になっているクラブを入団先に選んだのか。    それに、時貞が昨年の夏に日本に帰ってきたというのも不可解だった。  選手権での実績がそのまま通用するほど現在のZ1のレベルは低くないが、それほどの実力があるのなら向こうでプロになるという道もあったはずだ。いまでは日本の高校や大学を卒業した選手がいきなり海外クラブと契約するケースはいくらでもある。にもかかわらず、時貞はなぜ日本に帰ってきたのか。  選手権に出場してみたかったから。  選手権に憧れていたから。  そんなふうに思った下嶋の顔には自然と笑みが浮かんだ。いまもなお高校生にとって選手権は憧れの舞台であるが、それはあまりに安直な考えだった。  下嶋は考えるのをやめた。そんなことはどうでもいいことだと自分に言い聞かせた。それを知ったところでなにがどうなるというわけではないのだ。    プロの世界に求められるのはなによりも結果だ。プロともなれば誰にだって特別な思いはあるし、探せばドラマのひとつやふたつは出てくる。しかし、結果が出れば注目されるそれらも決して主役にはならない。メインディッシュを引き立てることはできても、ソース以上の存在にはならないのだ。  だからこそプロでは、チームメイトに対し余計な詮索はしない。どのような思いでプレーしているかというのは、チームの勝利という目的から外れていない限り、どんな形であってもいいのだ。  自分だってそうだ。  いまは息子の葵のためにサッカーをやっていると言っても過言ではない。    かつてはそうではなかった。    20歳そこそこのときは、自分自身のためだけにサッカーをしていた。もちろん、周りで支えてくれた両親や恩師、友人やチームメイトには感謝していた。しかし、それは自分自身と同列ではなかった。  
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