1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「ぱしぃっ!」
回し蹴りが、相手の左側頭部に綺麗に決まり、僕は勝った。
「よし! 龍(のぼる)! でかした!」
「嵯峨(さが)~っ! やったな!」
仲間が叫んでいる。部活の仲間や先輩達が手を振って喜んでくれている。
僕は高校空手道県新人戦で優勝したのだ。
『ちょっとは嬉しそうな顔をしたらどうだ!?』
喧噪の中、耳元で勇次郎が呟いた。僕はその声に向かって小声で言う。
「助けてもらわなくても、僕一人で勝てたんだ。余計な事はしないでくれ!」
『悪い、つい血が騒いでな』
「血なんかないくせに……」
勇次郎は僕の守護霊だ。四人いるうちの一人だ。
普通は守護霊っていうのは御先祖様とかがなるものだと思う。子孫を守りたいっていう気持ちで。
だが、僕の守護霊たちは僕とは何の関係もない奴らだ。なぜ僕の守護霊になっているのか僕には分からない。
守護霊の一人に聞いた事がある。なぜ僕の守護霊になっているのかと。
そうしたら「居心地がいいから」って答えが返ってきた。
僕は表彰式の後、着替えを済ませて、チャーターバスに乗り込むために体育館のロッカーを出た。部活のみんなは先にバスで待っている。
僕は写真撮影やら地方紙のインタビューやらで遅くなった。体育館の入口に向かう間、僕と勇次郎は言い争いをしていた。
『本当に龍一人で勝てたと思うか?』
「勝てたさ、僕も回し蹴りを出そうとしていた」
『でも、それじゃ蹴るのが一拍遅れたぜ?』
「それでも、当たったさ、コンマ何秒の差だ」
『まあ、そうだがな』
「だいたい勇次郎は……」
『ちょっと待って!』
「なんだよ、礼子?」
『まだ入り口を出ちゃダメよ!』
僕達の会話に割って入ってきたのは「礼子」。彼女も僕の守護霊なんだ。
僕は立ち止まって「なんで?」と言おうとした時だった。
「がしゃんっ!!」
建物の入口が破壊された。勢いよく車が突っ込んできたからだ。
ガラスは飛び散り、車は「シューッ」という音を発し、白い煙が吹き出ている。
表の方からは女子の悲鳴が遠くで聞こえる。
車が止まったのは僕のほんの二メートル先だった。
『ね。いったでしょ!?』
礼子は得意気に胸を張る。
「うん。いつもありがとう。危なかったね」
最初のコメントを投稿しよう!