「白雪姫の王子様はね…?」

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こんなつまらない番組より《あの人》の声が聞きたいと思って電話をするけれど、「ただいま留守にしております、御用の方は」という味気ない音がして、苛立って携帯電話を投げながらテレビ画面に顔を向けた。 他のチャンネルはくだらないお笑い番組、知らない音楽を流す番組、惚れた取られただのつまらない恋愛ドラマ…この「人の不幸」を濃縮した番組は唯一ましだった。                                            * 幼女が連れ去られ無残な姿で殺害された事件の遺族…被害者の母親は「私が少し目を離したのがいけなかったんです、私がいけないんです」と泣いた、40代と字幕に出ているがその人はどう見ても70代にしか見えなかった。 一人暮らしをしていた大学生が強盗に入られ殺害され現金を奪われた事件は被害者の両親は心労で病気になり、今は被害者の妹が事件解決を訴えていた。「私達家族の幸せを返して!私達の時間を返して!」という叫び。 シングルマザーが、深夜仕事先から帰宅中に強姦されて絞殺された事件では、当時5歳で、母親が何故いなくなってしまったのかすら理解出来なかった息子が今や妻子がいて立派に働く青年となり「母親の無念と自分の過去の苦しみ」についてを訴えた。 私は表情を変えることなくテレビ画面から顔を反らさなかった。 このチャンネルのボタンを押した自分を、見るものがないからこれでいいかとテレビを切らなかった自分を、後悔するのは番組終了二十分前のこと。 「最後はこの事件です」 司会者の作り物みたいな緊迫した声と同時に画面に映し出されるのは艶やかに加工を施され、毒々しい赤色を放つ、林檎の写真。 「これは、本当に許せない、女性の気持ちを踏みにじるような事件ですね …十年の間に東京で同一犯による結婚詐欺、そして殺人事件が起こりました。 被害者は全部で六名。全員毒殺されています。 現場には共通してリンゴが置かれており、このリンゴからは毒物が検出されています。 犯人はこのリンゴに注射器で毒を盛ったことが検察の調べで明らかになっていることから毒リンゴ事件・白雪姫事件などと呼ばれております。 この事件、驚くことに、犯人とされている人物は全員被害者の当時夫だったのです。」
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