「白雪姫の王子様はね…?」

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「容疑者の名前は堂園類、現在四十歳。指名手配中」 「えっ」 心臓で血の波がざぶりと起こった、その名前を聞いて。 その瞬間に私の頭の中では、 そんなわけが無いじゃない、だって殺人犯なら本名を名乗るはずがない、これは同姓同名だと心の中でまくしたてるように言い訳みたいな、自分を納得させるご託を大量生産したいた。 堂園類。どうぞのるい。ドウゾノルイ。 山田太郎や鈴木一郎みたいにありふれた名前ではないけれど、決して珍しい名前じゃない、決して珍しい名前じゃないはずだ。 この広くて長い日本列島には何人いてもおかしくはない。 そうだ、私の《心を包んでくれる人》とこの《凶悪な殺人犯》がイコールで結ばれるわけないじゃないか。 《女性を騙して、その女性を殺すような人》があんなに心を溶かすような愛の言葉を言えるわけがない、あんなに優しい手つきで私の髪を撫でてくれるわけがない。あんなに熱いキスを出来るわけがない…そう、そうだ。 あの手がもしも人を殺めた手ならば、もっと冷たいはずだし。 あの体の中に人を殺めようと思い実行する心が入っているのならば抱きしめられた時にもっと硬いはずだ。 《ルイさん》と《堂園類容疑者》は別人だ。そうに決まっている。 地震が起きている、かなり大きい。違う、周りは揺れていない。揺れているのは私だけだ。 痙攣でもしているみたいに私の体は震えていた。小刻みにびくんびくんと、なんだかとても寒い。 「…違う、違う、違うにきまってる」 自分で自分を抱きしめるように右手を左肩に、左手を右肩に乗せる…けれども《大好きな人》がしてくれるような温かさが無い。物足りない。 「そんなわけない、そんなわけない、ルイさんが――――」 けれども、 「これが堂園類容疑者の写真です」 ブラウン管の中にぽかんと映し出されたその顔は私の生活の一部となっているものだった。 くっきりとした二重、西洋人のような深い彫、唇の上にうっすらと浮かぶ小さなほくろ。いつも「ささめ」と語りかけてくれる穏やかそうでどこか寂し気な顔と同じ。 間違いがなかった、間違いようがなかった――この人は、ルイさんだ。 テレビの中で悪魔のように扱われている堂園類容疑者は、私の愛おしい人のルイさんなのだ。 「嘘でしょ」
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