「白雪姫の王子様はね…?」

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ルイさんと出会ったのは半年前のことだ。 私はその日も絶望していた。 最低出席日数だけ満たせればいいと、学校をさぼって、セーラー服のまま繁華街に繰り出す。 補導されるかと思っていたけれど声をかけてくるの は脳みそが無い男ばかりだった。 「ねえ、二万…いや、君可愛いから三万でどうよ?」だなんて、汚らしい、死んだらいいのに。 擦れ違う人はたくさんいる。 怪訝そうに視線を送ってくる大人、同じように制服姿で魚みたいに泳いでいる人、ぶつかっても何も言わずに去っていく人。 形だけのクラスメイトから入ってくる定型文みたいな心配しているふりのラインのメッセージ、教師からの留守番電話、もう声も忘れてしまった私を産んだ人からの着信はもうずっと無い。 こんなにもたくさん人がいるのに、私の居場所は何処にもなくて、私が本当に心を許せる人は何処にもいない…。 元々胸に積み重ねていた不満と絶望が崩れた。 私の家庭は決して幸福とはいえない。 …もしも幸福の基準が「富」や「お金」ならば「幸福」の部類に入るんだろうけれど、怒鳴り声が絶えないし、悪い日にはものまで飛び交うからやはり「幸福」の部類には入らないだろう。 高級と称されるマンションの中は、自己中心的な凹凸に仕上がっている。 私をこの世界に産んだ人は「私を産んだことは間違いだ、汚点だ」と言った。 私という生命を作る為に射精し、精子を出した人は時々家にいるけれど、私を「いるけれど見えないもの」として扱う。 大人は勝手だ。 性欲に従ってセックスする癖に、その快楽の果てに出来た子供の幸せなんて考えていない。 私の学校生活は決して幸福とはいえない。 名門女子校などとは名ばかりで、クラス内、学校内で作られた食物連鎖を模した三角形が出来ている。 あの子は可愛いから当然「上級」、 あの子はブスだけれど頭が良いから「上級」、 あの子はまあまあ可愛いけれど馬鹿だから「普通級」、 あの子はブスだし頭も悪いから「下級」。 頂点にいる人間は自分以外を蹴落とすことに愉悦を感じ、下方でくすぶる連中は上の人間を引きずりおろそうと血反吐を吐いていた。 私は一応「上の下級」に居たけれど、ろくに学校に行かなくなったからきっと今は「下級」だろう。 いっそのことその三角形の外にでもぽつんと置いておいてくれたらいいのに。
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