3-0からの選択

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3-0からの選択

〇東郷ドーム スコアボード カウントのランプのBが3つ光る。 N「ボールが3、ストライクが0。あと1つのボールで塁に出られるそのカウントは、バッターに極めて有利。だから次の球は見送るのがセオリーである。が、ピッチャーがストライクを取りたいがために甘い球を投げてくる可能性も大きい。だから打ちに行くことを選択するバッターもいる」 〇同 グラウンド ジャストミートしてバットを振り切る時任祐一(34)。打球はグングン伸びて観客席に突き刺さる。 野球放送「入った、入った! 3ー0から打ちに行った時任、優勝をアーチで決めました!」  ダイヤモンドを回ってホームに入ってくる時任を、ベンチから総出の選手達がもみくちゃにする。  客席には『グレートチキンズ、優勝おめでとう』の大垂幕と、大歓声の大騒ぎ。  監督の風間貢一(52)の胴上げが始まる。 〇同 ベンチ裏 優勝に沸くチーム。もみくちゃの時任。記者達の中には野々村結子(26)、松本(22)の姿。 結子「時任って身長打率のくせして、ここ一番に強いのよねえ」 松本「キャッチャーですもん、いいんじゃないですか? 時任って投手の性格に合ったリードするし、打者の裏かくのは超一級だし」 選手1「おい、東都スポーツの激辛キッコだ」 選手2「あいつのインタビューだけはヤダ」  ごみ箱の新聞紙を見る選手ら。 新聞「コラム『ファウルチップ』――XX選手のバントは草野球にも劣るド下手くそ――BYキッコ」 選手1「食いつかれたらボロクソだあ」 選手達は結子から逃げていく。 結子「フン」 結子N「あたしは東都スポーツのプロ野球担当記者である。あたしの書く『ファウルチップ』は選手を一人ずつ吊るし上げるコラムとして好評を得るようになってから、ちょっとした名物になっている」 松本「どうです? 時任、次のターゲットに」 大切そうにミットの泥を払う時任。 結子「……ダメね。叩くには埃がなさすぎるわ」 結子、咳とくしゃみを連発。 松本「風邪ですか? 鬼の攪乱だ」 結子に叩かれる松本。
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