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いつかの成長
幼馴染の郁夫は、昔っから背が低い。というか、全体的に小柄。
アタシの方が半年誕生日か早いせいか、体格差が随分あって(といっても、アタシが無駄大きいとか太ってるとかじゃなく、あくまで、郁夫が人より小さいんだけど)、お姉さん役としていつも世話を焼いてきた。
今日だって、親が記念にと言うから、来週から通う中学制服を着て写真を撮ることになったんだけど、着崩れているというかなんというか、全体的にだらしない感じなのよね。
「ほら。ボタンちゃんと閉めて。袖とか裾とか伸ばして」
注意してしゃんとさせるんだけど、それでも学生服が馴染まないなぁと思うのは、サイズが違いすぎるから。
三年着せるから、わざと大きめのを選んだ…とかじゃなく、おばさんは、一番小さなサイズの学生服を買ったって言ってた。でも、それ以上に郁夫の体が小さくて、どう締めても詰めても制服はぶかぶか。これじゃ似合う訳ないよね。
でも本人はまるで気にしてないらしく、そのうち育ってちょうどよくなるよ、なんて言ってるだけ。
今までずーっと小柄で、整列の時には一番前にしか並んだことのないアンタが、育つとか言ってもねぇ。
馬鹿にする気はないけれど、全然ピンとこない。なんてことを考えていたら、勝手知ったる隣の家の庭なのに、ちっとある段差につまずいて転びそうになった。
「律子!」
郁夫の手がアタシの手を掴む。ぐいと引っ張られたら、もう倒れかけていた体があっという間に元に戻った。
「お前、気をつけろよ。転んだら入学式前に制服汚れちゃうぞ」
ウチの親と郁夫の家の親が笑う。でもアタシはその意見に頷くことすらできず、ぼーっと郁夫を見つめていた。
比べるまでもなく、まだ全然アタシより小さい体。でも、転びそうになったアタシをたやすく引っ張って元に戻せるだけの力が今の郁夫にはある。
もしかしたら、本当にうんと大きくなるのかも。
この学生服がぴったりに…どころか、もう着てられないくらいに育つかも。
そんな郁夫の姿を見たら、今の些細なことに、ちょっとだけどきゅんてなったアタシは、いったいどうなっちゃうんだろ。
すっごく育っちゃう? かっこよくなっちゃう?
そんなことをぐるぐる頭の中で巡らせながら、アタシは、今はまだ制服がぶかぶかすぎる郁夫の姿を見つめ続けた。
いつかの成長…完
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