観光地のノート

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観光地のノート

 友達と二人で旅行に行った。  ガイドブックを片手に観光名所を訪ねて歩く。その途中、雰囲気の良い喫茶店に立ち寄った。  近くに名所があるためか、メニューの紹介などが観光客対応だ。ちょっとしたお土産物も店の奥にたくさん並べられている。  そのスペースの片隅に、思い出帳と書かれたノートが置かれていた。  店の人が趣味で置いているノートで、書くのも見るのも自由。旅の楽しかった思い出などを書き込んで欲しいという意図で設置してあるらしい。  友人と二人で中を見る。ほとんどが、旅行が楽しいという意見だけれど時々、こんな穴場のスポットがあったよ、という書き込みもされており、私達の冒険心をくすぐった。 「こんな場所があるんだ」 「ここ、割と近いし。すぐ行けるかも」  ガイドブックにはない現場の声に、わくわくしながらノートをめくる。そして、とあるページで手を止めた。  一ページだけ、何の書き込みもされていない、真っ白なページが現れたのだ。  見開きの、右には普通に書き込みがあるのに、左側一枚だけが真っ白。何かを消したとか、別の紙が貼ってあって、後からそれを剥がしたとかじゃない。本当に、最初から何も書き込まれていないと思しきページ。  ここだけいったい何だろう。そう首を傾げる私の横で、友達は目を輝かせ始めた。 「これ、すごぉーーーい! ねぇ、この後の予定キャンセルして、ここ行こう!」  そうまくしたてるが、私には、何が凄いのか判らないし、そもそも『ここ』が何であるのかも判らない。  友達は興奮して、凄い凄いとノートを見せつけてくるけれど、私には、このページは何も書き込まれていない白紙にしか見えない。だから、この先の予定を変えようと言われてもそれに頷くことはできなかった。
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