第1章―三人の馬鹿

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東京という街は金さえあれば極楽だ。どこにでも旨いものはあるし、女も買える。きらびやかな街の灯りは冷たくなった空気も、頼る者も家も何もない自分をも忘れさせてくれる。 「クソッ!!馬鹿野郎!!」 田中鉄雄はバチンコ屋の前で自分にぶちキレていた。 ポケットにはなけなしの一万円。これまでやられたら今日泊まるとこすらない。 「金の切れ目は夢の切れ目だな。」 さっきまで財布にあった10万円。少し増やそうと思ったのが仇になった。 こんな事は一度や二度じゃない。 上野の駅に行けば、顔見知りの手配師が何人かいる。荷物を抱えてベンチに座ってれば、誰かしら声をかけてくれるだろう。飯を食わせてくれて、煙草を買ってくれる代わりに、掃き溜めの飯場で二束三文でこき使われる。 日当1日9000円。寮費は1日3食付きで4000円。煙草とビールは寮のつけで給料引きで1000円。1日何とか4000円残る計算だ。15日から30日契約で満了。ただしあくまでも実働日数だ。1日働いて、次の日休まされたら自分の取り分はない。 どんな劣悪な環境だろうと犯罪者にならずに、俺たちみたいなクズが生きて行くにはそんな場所も必要だろう。 ただ、時期が悪すぎる。東京の大手の現場仕事は26日には終わる。正月開けは5日か6日か7日か。いきなり5万円くらいの赤字を我慢しなけりゃいけない。 そんな思いで働いた金をものの2時間で使い果たした。 俺なんて… 「早く死ねばいいんだよ」
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