第1章―三人の馬鹿

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「ばーか。ばーか。」 それを聞いたサラリーマンの1人が、倒れている野口広樹の顔に蹴りを入れる。 「馬鹿はお前だよ!!」 吐き捨てるようにそう言って、仲間たちと逃げる様にその場を去った。 鼻からも口からも血を流しながら、野口は思う。いつも通り…世の中は… 「馬鹿ばっかり。」 野口広樹は酔っぱらうと喧嘩をする。勝とうと負けてぼろぼろになろうと関係ない。自分自身が終わっているんだから…ただ、終わっている自分を貶せるのは、ここに至るまでの自分を知る自分だけだ。ぬくぬくと生きてるお前らじゃない。 基本的に野口は自分の全てに自信がない。仕事は土方見た目は廃人。頭も良くない。金はない。点数をつけるなら0点。マイナスでないのは堅気に留まっている事だけだ。自分に自信がないから、些細な事にイライラして喧嘩を吹っ掛ける。やられている間はせいぜい留置場止まりだ。刑務所じゃ酒は飲めない。 重い身体を起こしサウナに向かう。血だらけの中年を気味悪がって、通りすがりのOLが立ち止まる。 「見てんじゃねぇよ!」 運の悪い女は走って逃げた。休みの日まで飯場には居られない。普段の日曜日ならサウナもいいが、今日はクリスマスだ。年末のイベントの日のサウナはもの悲しい。ああ、自分はまともな人間じゃないんだと思いしらされる。去年の大晦日はサウナで年越しそばを食って、朝にはサービスで雑煮が出た。あんなに悲しい食い物はない。 「ああ、誰か殺してくんねぇかな…」 もちろん、自分をだ。
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