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田中鉄雄は24時間営業のゲームセンターにいた。深夜2時だ。パチンコで負けて、ゲーセンのコインゲームで大勝ちする。何の意味もない。田中鉄雄の人生そのものだ。こんな時間にこんな所にいる奴はろくな奴ではない。まともな人間はもっと温かい平和な所にいる。そのろくでなしがこんなにたくさんいる事に安心している。
そのうちここにも居られなくなり、街に放り出され、寒さと飢えに追いやられるまで、自分の愚かさには目をやらず、想像もできない。
いや、想像しない様にしているだけだ。現実の自分を思い知らされるのは駄目人間にとっては苦痛でしかない。放っておいても時間は刻々と過ぎて、その人物に相応しい場所に連れて行く。
「勝ってるねぇ…」
知らないうちに隣に、白髪のオヤジが座っている。
「……………………」
鬱陶しい。駄目人間のパーソナルエリアに近づく人間は危ない。まともな人間なら鉄雄には近づかない事ぐらい鉄雄自身が誰より把握している。
「クックック。面白いかい?一円にもならないのに。」
「うるせえよ。あっち行けよ。」
オヤジを睨んで威嚇してみる。着ている物は上品なスーツに明治の文豪が被るような帽子…なんだこいつ。こちら側の人種ではない。その上、うっすら笑っている。こいつはますますやばい。関わらない方が無難だ。俺はコインを箱に詰めた。
「逃げるのか?いつもの様に…困った事や厄介な事にきちんと向き合って来なかったから、今のようになったのに…また逃げるのか?」
「なにぃ、この野郎黙ってたら調子乗りやがって!」
立ち上がってオヤジの胸ぐらを掴むつもりが…
「あれ?」
身体が動かない…
「相変わらず見境なく短気を起こし、せっかくのチャンスを捨てて、またゼロに戻る…」
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