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「まったく、あの人は…」
扉の前で溜め息を吐いて、日生は歩き出す。初めから楽な仕事ではないと分かっていたが、それでも溜め息は出てしまう。
「ま、仕方ないか」
誰にともなくそう呟くと、彼女は歩き出した。目指す場所は公安二課だ。
警視庁公安部二課は、主に労働争議や革マル派と呼ばれる共産主義団体の情報収集を担当する部署だ。
その二課を取りまとめている人物こそが、二宮凛子警視正である。
「…匂宮、ねぇ」
先程漏れ聞いた言葉を口に乗せる。どんな人物なのか正直気になるが、それ以上にこのお使いの意味も相当気になるのが正直なところだ。
「刑事部からの報告か。ま、ロクな報告じゃないだろうけど」
実際、この「おつかい」を頼む時の早次の声からは、苦渋の色が見えた。努めて意識しないようにはしていたが、バレバレだ。
「私を誰だと思ってるのかしらね」
聞きようによっては不遜ともとれるその言葉を吐いて、彼女は歩みを止める。
そんな彼女の視線の先には、「公安部二課」と印字されたプレートがあった。
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