匂宮

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「失礼します。二宮課長はいらっしゃいますか?」  そう言って、扉を開く。部屋の中にいた捜査員が一斉にこちらを見たのが分かった。 「本日より、公安部参事官付警部補として就任しました、高雫日生と申します」  突き刺さる視線を一身に浴びながら、それでも日生は微笑む。 「以後、お見知りおきを」  そう言って軽く頭を下げると、誰かが小さく口笛を吹いた。その心証は「予想外」といったところか。  しかし、残念ながら求めているのは賞賛でも感嘆でもない。 「あの…?」  顔を挙げ、不思議そうに首を傾げる。  もっとも、内心では『私はそんなに難しいことを聞いたかしらね』という嫌味付きだが。 「すみません、課長でしたらこちらにいらっしゃるかと」  表向きは殊勝な日生の態度にいち早く反応したのは、着崩したスーツがよく似合う、刑事というよりはホストと言った方がよさそうな青年だった。  こりゃまた、この場にそぐわない人がいたものね  そうは思うが、自分も似たような立場だということを思い出す。  ま、あからさまに『刑事』ってばれるような格好でいても、困りものか  肩を竦めてホスト風の彼に目礼をすると、彼もあわせて頭を下げた。  やれやれ  憂鬱な気持ちを噛み殺すようにして、示された方向へと歩を進める。無論、不承不承のため足取りは重い。
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