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―警視庁 公安部参事官室
「仕事についての説明は以上だ。質問はあるか?」
辞令を読み上げると、上司である彼はデスクでそう訊ねた。その言葉を聞いて、それを受け取った彼女は辞令の書かれた紙を掲げて首を傾げる。
「…つまり、私の身分は警部補ということでいいのでしょうか」
「一応、参事官付のな」
溜め息混じりにそう答えると、参事官である彼は続ける。
「お前の仕事は、俺の補佐ということになる。もっとも、デスクは向こうだけどな」
そう言って、彼は彼女の背後にある扉を顎で指した。それを見て、彼女も倣うように肩を竦める。
「まぁ、それはいいんですけど」
そう言って、力なく笑う。だが、次の瞬間彼女の唇の端がつりあがったのを彼は見逃さなかった。途端に、彼女の視線が獲物を見た時のそれへと変わる。
こういうところは変わってないのな
目の前にいる、パッと見二十代の彼女。背中まで伸びた長い黒髪が印象的な彼女は、半年前まで早次が所属していたFBIでのパートナーだ。
整ったその顔立ちからはおとなしい印象を受けるが、その外見に似合わぬ厄介な性格は、彼女と行動を共にした三年間で嫌というほど知っている。
参事官である彼―御厩(みまや)早次(はやつぎ)は、目の前の彼女の様子を見て内心溜め息を吐きながら肩を竦めた。
「…それで御厩さん、いつから日本の警察は十八歳未満の通常勤務を認めるようになったんですか?」
こちらの反応を窺いながら、嬉々としてそう聞いてくる。
さて、どう答えるか
何しろ彼女は十三歳だ。
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