日生

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―公安部総務課 「っはよーございまーす、ただいま現場から戻りました~」  同時刻、隣の部屋にその掛け声とともに入ってきた男がいた。  その声を合図に、それまでパソコンの画面とにらめっこしていた青年、葵(あおい)鈴生(すずき)はようやく視線を画面から外し、声の主を見る。 「ああ、お疲れ様です」  鈴生が気だるげな声でそう挨拶すると、声の主は扉を閉め、つまらなさそうに隣の席に座った。 「なんだよ、テンション低いな~」 「あえて言うなら、あなたが高すぎなんですよ…」  溜め息混じりに、鈴生はPC用メガネを外した。これは、長くなりそうだ。 「というか、昨日は一課の手伝いで夜勤だったんでしょう?今日くらい休んでも、怒られなかったと思いますよ」  外した眼鏡を置いて言う。事実、彼―速水(はやみ)月長(つきなが)巡査部長は昨夜、公安一課の助っ人として徹夜の張り込みを行っていたはずだ。  一応、彼の健康と体調を気遣ったつもりだが、意を介さず当の本人は鈴生を見た。 「カタいこと言うなよな~。例の補佐の娘、今日からなんだろ?」 「ああ、それ目当てでしたか」  納得とともに、この分だと自分が彼女について聞かれるのだろうという予測も手伝って、ため息が出てしまう。単刀直入に言うと、相手をするのが面倒だ。  そんな思いと共に下を向いたのと、月長が鈴生の肩を叩いたのはほぼ同時だった。 「で、見たんだろ?」 「…何をですか?」 「その補佐を、だよ。美人だったか?」 「…」  予想通りの反応をする同僚を、半ば呆れながら見る。第一、自分に聞かれても困るという思いもあった。何しろ…  その思いを飲み込んで答える。 「まぁ、美人の部類には入ると思いますよ。本人も自覚があるようで、それを考慮に入れた上での立ち居振る舞いをしますから」  うんざりと答えると、月長は意外そうに鈴生を見た。 「なんだ、面識アリか」 「一度、容疑者の引き渡しで会ったことがあるんですよ」 「ああ。そういやお前、一時期カルフォルニアの方に研修で行ってたっけ」  納得したように頷く月長とは対称的に、鈴生は眉間に皺を寄せている。
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