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「僕は彼のために女の子になって――」
「自分が女にならんでも……」
「タマゴを産みたいのだ!」
「っ! 衝撃的告白にボケを交えるなや! 突っ込まんといけんやろ! カラスに例えたからって赤ん坊までタマゴに例えてどないすんねん! それにな、どない頑張っても赤ん坊は無理やぞ!」
完全におかしくなってもうてる。力を使おう。ここで使わんでいつ使うんや。
花奈ちゃん……!
俺と花奈ちゃんの運命は時間を巻き戻したくらいじゃかわりはせん!
何度だって付き合ってみせる!
「も~エセカン、話聞いてた? だからカラスなんだってば!」
「なにがや」
「セバスチャンはカラスなの」
固唾を飲んで見守っていた教室がどよめいた。
関西人の血を引いている俺さえも、言葉が詰まる。
「カラスって……黒くて、鋭い嘴でゴミ漁ってるあのけったいな鳥のことかいな!」
「セバスチャンはゴミとか漁らないし! 紳士だし!」
「人でさえもないんかい!?」
俺は頭を抱えた。
彼女に振られ、精神的におかしくなったにちがいない。
一秒でも早く時間を巻き戻さなくては。
目を閉じ、精神を統一する。
一羽のカラスが嘴で器用に窓をノックした。
「セバスチャンだ! 今窓開けるからね!」
セバスチャン登場やて!?
カラスが優雅に教室へ入ってくる。
首にーーあそこは首かいな? ーー赤いスカーフを巻いていることを除けば、そこら辺にいるカラスと代わらない。
カラスは翼を広げ、アツにハグをする。
人にハグするカラス……。こんなカラス見たことがない。
アツも完全に乙女の顔や。花奈ちゃんもあんな顔するわ。
カラスにハグされて嬉しいんか?
幸せなんか?
俺はアツの幸せを壊そうとしてるのか?
俺は間違うとるのか?
「紹介するね。彼がセバスチャン」
俺はカラスを凝視した。
嘴がゆっくり開く。
喋る? 本当に喋るんか。
力を使うべきか否か、どっちや!?
俺はどないしたらいいんや……。
全神経を鼓膜に集中させた。
了
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