第1章

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「あの、服の準備をしたいので、あさってではだめでしょうか」 「いいわよ。  あ、それからね、朝ごはんはしっかりと食べてきてね」  と店長は、休日や時間、給料の話をして、これで採用が決まったようであった。私は店長のめがねに叶ったということになる。この『ポルトルージュ』には〝チーフ〟と呼ばれる男性がいるとのこと、ちょうどこの地で開店した時に入ってきたらしい。年齢は三十代ということだった。今日はチーフはいなかった。 「では、よろしくお願い致します」  これで、私の社会人人生のスタートが切られた。  学校を出たての私のような卵は『見習』と呼ばれる。当然、カットなどはさせて貰えない。雑用が殆どだ。勿論、学校ではマイ鋏を持って実習を繰り返すのだが、実際の店ではお客様相手できるまでに相当な時間がかかるのだろう。私も覚悟してきたつもりだ。だから、朝早くから店に入って、開店の準備をしていた。  『ポルトルージュ』は、入口がガラスの自動ドアになっていて、入ると両側に三台ずつの鏡、中央はキッズコーナーになっている。お子様連れのお客様に対応した作りだ。おもちゃや絵本、ぬいぐるみなどが置いてある。その奥がシャンプー台二台、横に小部屋があり、洗濯機や流し台、棚がある。洗濯機はお客様用に使うタオルの洗濯のためだ。流し台にはお茶のセットがある。お客様にお飲み物を出す時に使う。棚にはカーラーが並んでいる。私はこの小部屋と店の中を行ったり来たりすることになるのだろう。  朝早くから、店内の鏡を磨いていた。閉店後に磨いても、夜の間に埃がつくということで、開店前の仕事になっている。鏡に曇りがあってはならないと言われていた。勿論、私の仕事だ。そうして、床を掃いていた。 「おはよう」 「おはようございます。山口です。よろしくお願い致します」  入ってきたのはチーフだった。ちょっとワイルドなイケメンである。私はこの人の元で働くことになるであろうと、丁寧に挨拶したつもりだった。 「おお、山口、やまちゃんやな。頼んまっせ」  チーフの言葉に、一瞬驚いたが、その気さくさに私は安堵した。何といってもチーフなのである。先輩、上司、そして店を支える人なのだ。  店長がそばに来た。 「今日からうちのスタッフになる、山口朱美さんです。チーフ、よろしくお願いします」 「はい、分かりました。  じゃ、やまちゃん、いこか」
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