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振り向いて、夕くんを見る。しかし、夕くんは何も言わず。いつもの笑顔もなく、ただの無表情で、ぼくを見ている。その目には、感情がないように見えた。
この目を、ぼくは知っている。
クラスメイトが僕を見る時の目だ。悲しい目だ。それによく似ている。
「何黙っているのさ、夕くん」
すがりつく。ほらやっぱり、触れるじゃないか。真島が嘘を吐いているんだ。いない人間に触れるはずないじゃないか。なんてひどい嘘を吐くんだ。
「直。直、落ちついて」
「ほら見ろ、ちゃんとここに夕くんはいるじゃないか!」
真島に証明するため振り向いたら、さっきいた場所に彼女はいなくて、夕くんの目の前に立っていた。だけど、目線が少しずれている。
「わたしには、見えない」
そう言って、彼女はぼくの手を掴んだ。
夕くんに触れているはずの、その手を。
「直、気をしっかり持つんだ」
優しく囁く夕くん。はっきりと声が聞こえるのに、しっかり姿が見えるのに、すごく遠く感じる。いや、近すぎる感じがする。どっちか分からない。
分からない。何も分からない。夕くんが正しいのかそれとも真島の言うことが正しいのか。夕くんがいない? そんな馬鹿な事があるもんか。でも、それならなんで真島には夕くんが見えない。触れない。声が聞こえない。今まで夕くんがいない時に真島が話しかけてきたのは何故なんだ。偶然じゃなくて、だとしたらどうして。二人でぼくを騙そうとしているのか? 夕くんがそんなことするわけがない。だから夕くんが好きなんだ、それなのに、夕くんがそんなことするわけがないじゃあこの状況は何何なのどういうことで、これはどうして真島は嘘吐きで、でも本当で夕くんがいてでもいなくているいない嘘本当何処で誰で誰がぼくで――。
「うわあああああああああああああああああああああああ!!」
「きゃっ」
「直!」
思いっきり手を振り回して暴れて、二人を突き放した。
後ろのフェンスに思いっきりぶつかった。だけど、ぼくの体は止まらずに、そのまま後ろへと倒れる。
倒れたけど、コンクリートの感触は、なかった。
気がつくと、二人が遠くなっていき、手を伸ばす夕くんの手を掴もうとしたけれど、届かなくて、真島の顔は見えなかった。
それ以外、覚えていない。
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