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どうやら僕は助かったらしい。
昨日の雨のおかげで土が湿っていて柔らかくなっていて、その上に落ちた僕は奇跡的に軽傷なんだって。
それでも、全身打撲で体中が痛い。歩けないわけじゃないけれど、お医者さんが、脳の方も検査しているから、しばらくは安静にと言っていた。
脳。そんなもの、とっくにおかしくなっているに違いない。
だって、いもしない友達が見えていたのだから。
ドアの外で、両親が喧嘩しているのが聞こえる。せっかく二人がもう喧嘩しないように五年も頑張って来たのに、結局原因はぼくなんだ。確か、離婚の話しの時も、ぼくをどっちが育てるかだった気がする。
どうやら、ぼくは誰にも必要とされていないらしい。
愛されていないらしい。
両親はまた喧嘩を始めてしまった。唯一の友達だと思っていた夕くんも、僕の頭の中だけにしかいない。しかも、ぼくが孤立していた理由は、その唯一の友達のせいだったんだ。
いもしない友人に話しかけていたのが、気味悪かったんだ。
夕君がいないなら、学校に行く意味はない。
学校に行かないなら、家にいればいいのかな。それも嫌だ。学校と同じくらい、家は嫌いだ。
じゃあ、ぼくの居場所なんて、ないじゃないか。
困ったなぁ。
誰にも必要とされないぼくは、どうしたらいいんだろう。
窓の外は綺麗な夕焼け。確か、僕が落ちたのもこんな日だったっけ。
あれから五日経っているらしい。すごく寝てしまった。
窓に近寄り、開ける。ぼくの病室は、六階建の病院の最上階。最上階の窓は、ぼくぐらいならすんなり通れそうだ。試してみよう。
「いってきます」
ドアの外の二人に挨拶をする。ぼくはただ、二人に笑って「いってらっしゃい」と言ってほしかっただけなんだよ。
返事は来ない。もう、言ってもらえないみたいだ。
窓枠に足をかけてみる。
ほら、やっぱり。簡単に通れた。
ぼくは歩き出すように外に出た。二回目だと、慣れたもんだ。何も怖くない。それともそれは、生きている方が怖いからなのかな。
ああ、風が気持ちいい。空が下に見える。不思議な気分だ。空を飛ぶのってこんな気持ちなのかな。
だったら、生まれ変われるのなら、ぼくは鳥になりたい。
病院の二階ぐらいだろうか。知ってる顔が、ぼくを見ていた。笑顔を初めて見て、驚いてしまった。
そうか、君は――。
了
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