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いじめられているから。そう口にするのは、五年経ってもやっぱり難しい。
結局その先は言えずに、黙ってしまう。夕くんも決してその先を聞いてこようとはしない。ぼくが本当に嫌だと思う事は訊かないし、しない、優しい夕くん。
何故、ぼくなんかといてくれるのだろう。他の人とも仲良くすればいいのに。
「夕くんこそ、混ざればいいじゃないか。ぼくになんか構わないで」
だからぼくは、そんな気持半分、悔しいの半分で、そう言ってみた。 とても嬉しいことなのに、ぼくは拗ねたまま、夕君を責めるような口調になってしまう。もしかしたら、半分半分なんかじゃなかったかもしれない。
夕君は首を振った。
「僕は君といる方が楽しいよ」
その言葉と、柔らかい笑顔は、とても魅力的で、だけど気恥ずかしくて、上手く言葉に出来なくなってしまった。外の暑さとは別に、ほっぺたが熱くなった。
「おい、また休んでるよ。あいつもよくやるよな」
「気にすんなよ。いつものことじゃねえか」
ボールを追って近くにきたクラスメイト達が、ぼくらを見て小声で一言二言話している。何を言ってるか、いまいち上手く聞こえないけれど、どうせ気持ち悪いとかそんなことを言っているんだ。
コート外から出たボールをすぐに投げ入れて、逃げるようにぼくらの近くから遠ざかっていく。
それは五年間経験してきても、慣れるものじゃない、うつむきたくなる。
「気にすることないさ」
クラスメイト達を見ながらそう言う夕くん。
その優しさに、いつも助けられている。本当に、彼がいたからここまで学校に来れたんだって、強く思う。
感じる嬉しいという気持ちにも、慣れることなく、ほっぺたがかゆくなる。
ほっぺたをかいていると、夕君がふいに立ちあがって、背伸びをして、固まった筋肉をほぐしだした。僕はそれを見上げた。
「もうすぐ授業が終わるね。僕は先に教室に戻ろうと思うのだけれど、君はどうする?」
「あ、うん。僕は残るよ。一応授業だし」
「偉いね」
同い年のはずなのに、お兄さんの様にそう言って、夕くんは先に教室へと戻った。僕は程なくして、クラスメイトに混じって、教室に戻った。
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