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「あ、あああの。浅井君っ」  給食を食べ終えて、一緒に食べていた夕君がトイレに行った時だった。真島がぼくに話しかけてきたのは。  いつも通りおどおどとしていて、手が若干ふるえている。そんなに怯えるなら、話しかけてくれなくていいのに。うんざりしてしまう。  溜息を吐きそうになって、そういえば、と、ぼくはある事に気がついた。  そういえば、こいつが来る時は、何故か夕君はぼくの傍にいない事が多い。というか、こいつと夕君が僕の前に一緒にいるとこって、見たことない気がする。気のせいか、偶然だとは思うけれど。  でももしかしたら、真島が狙って話しかけてきているのかもしれない。二人を相手にするのは、流石に出来ないのだろう。僕だけでもこれだけびくびくしているんだ、二人いっぺんにいたら、近寄ることも出来ないんだろう。 「なに?」  こういう無愛想な言い方をすると、泣きそうな顔をするから、まるでこっちがいじめているような気分になる。いじめられているのはぼくなのに。  真島はあっちこっちに視線を飛ばして、指をくねくね動かしてから、最後に視線を右下にしながらぼくに用件を伝える。 「あ、あのね、あああ、あのあのあのね」  ただ、最近は何か、特別なことを言おうとしているような気がするのだけど、それも僕の気のせい?  途中までは何か言おうと頑張るのだけど、やっぱり言えなくて、だからあらかじめ用意してた用事の方だけを言って帰る。そんな感じ。勘繰り過ぎだろうか。でも、何か言おうとして口を動かして、途中で辞めて下向いて、またこっちを見てを繰り返している姿は、提出物を出してほしいとか、そんな事務的な事を言いたいようには、ぼくには見えないのだけど。 「うん」  だから最近は、ちゃんと聞く姿勢があることを伝えるために、無言を止めて相槌を打っているんだけど、どうにも彼女は、言いたいことを封印されてしまったかのように、その先を言おうとしない。いい加減面倒ではあるんだけど、僕が無視をしてしまうのはダメだ。僕だって、無視をされたくないんだから。  周りの目が痛いけれど、我慢する。彼女の言葉を、背中に汗をかきながら、今日こそ言ってくれると信じて待つ。
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