温かな時間

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あたりさわりのない会話を続けながらのドライブ。 ほぼ一本道をずっと運転しているだけ。 「卒論の指導って大変ですか?」 君が卒業したのはずいぶんと大昔でしょう。 僕は意地悪だからいじめちゃうよ? 「うーん、どうだろう。指導っていうか、学生のやる気の問題だし。 でも、切羽詰まってる学生は助けてあげるね、励ましてもあげるし」 「へぇ、優しいですねぇ。センセー、書けそうにないんですって言われたらどうするんですか?」 「ひとまず、提出日に提出だけしなさい。枚数が足りない分は後から付け足すこともできるように取り計らってあげます。教務課だけ、クリアーしないと卒業できないよって言うかな」 「……」 誰とは言わないけれども、僕の横に座るお地蔵さんの卒業論文は最低50枚以上書かないといけない規定を破ってたったの30枚で終っている。 それで卒業しているのだから驚きだ。 「過去には、50枚に達せずにたったの30枚で卒業した先輩もいるから取りあえず提出して審査してみましょうって励ますよ」 「……へぇっ。そんな不届きな卒業生がいるんですねぇ……」 絶対に気が付いているはずなのに、知らぬ存ぜぬで通す気らしい谷原さん。 「内容が伴っていれば、多少の規定違反はどうってことない。内容のないものが50ページよりもずっといい」 「へぇ……」 「と、いうことらしいよ。さすがに30枚なんて少ない卒論は後にも先にも1本しかお目にかかってないけどね」 「へぇ……」 「さっきから返事が全部へぇっ……になってるよ?」 「……」 「あっ、返事もしなくなった」 「……」 だんまりらしい。 お地蔵さんらしい。
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