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「なんでそんな少ない枚数だったんだろうね」
「さぁ……?」
「不届きだよね」
「ですよねぇ……」
一応、返事はしてくれるけれども、歯切れの悪さが全開で僕は面白い。
「よく卒業できたよね」
「卒業できずに、留年していたら人生が変わっていたでしょうね」
窓の外を見ながらポツリと言った言葉が僕の心の池の奥深くまで落ちた。
そして、その波紋がさざ波のように対岸まで広がった。
まったくその通りだとは思う。
同じ会社に就職することもなかっただろう。
ひょっとすると、別れてしまった大昔の恋人とそのままうまくいったのかもしれない。
良い方に転がったか、悪い方に転がったかは、神様のみぞ知るだ。
「卒業できて良かったと思うよ、僕は」
今の谷原さんの状況がどうであれ、僕にとっては良かったはずだ。
こうして今、ここでこんな風に話しながら車に乗っていられるのだから。
「ですよね、一年分の学費だけを考えても絶対に良かったはずですよね」
学費!?
そこなの!?
「それに、あの頃って就職するの大変だったからまともな会社に就職できたかどうか……ニッコリクレジットがまともな会社の定義にあてはまるかどうかも疑問ですけど……」
僕の心の中で、小さく燃えだしたはずの嫉妬の炎は燃え上がる前に、あっという間に消火されたみたいだ。
そして、そんな僕の心の中なんてこれっぽっちも知らないんだろうなぁ……平和だ。
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