第4話

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 勝手に自分の中でそう決めて宣言。  でも結局毎日パンの売れ残りを貰えて、  店主のおじさんと奥さんの人柄も良く、  辞めるに辞めれなくなってしまい、  2週間が経ったある日。  いつものように出来たてのパンを、  店の棚に陳列していた時、 「・・・かお、りん?」    唐突に寄越されたその声に。  振り向くと、  見覚えのある元同僚、  スーツ姿の伊東君。  目を大きく見開いて、  かおりんと呟きながら、  こちらに近づいてくる。 「かおりん、かおりん、かおりんだ、本当にかおりんだ、かおりんかおりん~~」 「こんにちは伊東君、久しぶりだね」 「会社に出入りしてる業者の人が、ココでかおりんに似た人を見たって聞いて来たんだ。そしたら本当にかおりんいたからぁあああ」  そう言った後、  次にはボロボロと泣き出す。  レジにいた奥さんが驚いて見てる。 「かおりん急に会社辞めたから、会社の誰に訊いても理由知らないって言うしぃいい」 「うんうん、ごめんね黙って辞めて。ほら鼻水出てる」 「会いたかったよお、かおりんに凄く会いたかったよぉおおお」 「わかったわかった」  着ていたエプロンのポケットから、  ポケットティッシュを出して、  鼻水流して泣いてる相手に渡す。  やれやれの元同僚だ。  他にお客さんもいない今、  店内で堂々と鼻をかんでいる人物に、  話しかける。 「会社の皆は元気?変わりない?」 「皆元気だよぉ、変わりなく働いてるよぉお」 「部長・・・は元気?」 「佐久間部長は社長の娘と結婚したよぉ、でも結婚破談したって聞いたよぉおお」  ・・・どっちなんだ。  久しぶりの元同僚との再会。  会話もしたいけれど、  でも今は仕事中。 「伊東君ごめんね、ゆっくり話したいけど、私今仕事中だから」 「うん。かおりん、僕パン買うよ。全部」  鼻をかみ終えた元同僚が、  顔を上げて突然言い放つ。 「え?全部、ってここに置いてあるの全部?」 「うん。かおりん作ったパン全部買う」
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