第4話

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第4話

 前略、  私のお腹の中の赤ちゃん。  元気に育ってくれてますか?  お母さんは只今、  ヘロヘロのボロボロです。 「・・・絶対転職ミスした、パン屋はなぜあんなに過酷労働なのだ?」  よろけるように靴を脱いだ後、  畳の部屋の中央に、  崩れるようにグッタリ横になる。  前に住んでいたマンションから、  2駅隣の地区。  6畳1K、南向きの部屋。  築40年で家賃3万円の、  激安ボロアパートが今の私の城だ。  このアパートに引っ越してきて、  今日で3日目。  部屋の片隅に衣装ケース4つ、  布団一式、  小さなガラステーブル、  それだけしかない殺風景な部屋。  これが私の全財産。  狭いからテレビやベッドは置いてない。  私の再就職先は、  アパートから徒歩6分の、  街角の小さなパン屋さん。  従業員は、  店主のおじさんとその奥さんだけ。  店先に求人広告が貼られていたのを見て、  訊ねたところ即採用が決まった。  のだが。  再就職1日目の今日、  私の中で早くも転職希望フラグが立つ。 「パン屋の仕事を完全に舐めてた・・・」  グッタリ横になったまま呟く。  粉を捏ねてオーブンで焼くだけ、  単純作業で簡単楽勝、  なんて考えていたのだが、  いざやってみると想像以上に、  なにもかもが重労働。  大量のパンを作るとなると、  小麦粉も重い、  捏ねるのも力仕事、  コロッケなど揚げる作業もあり、  油の交換がこれまた超大変。  パンという食物は、  ホームベーカリーで作った方が、  ラクチンで大変よろしいと思う。  店主のおじさんにそう提案したい。 「辞めたい・・・転職大希望」  今までずっとデスクワークで、  力仕事と無縁の私には、  過酷過ぎるパン屋。  いやダメだ、  こんなことでヘコタレてられない。  子は親の背中を見て育つという。  母が頑張っている、  この雄姿を見せるのだ!  でも・・・超しんどい。 「背中を見て育たなくていい、胸を見て育てばいい、辞めたい・・・」
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