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「一時的には曽根崎に気を許すかもしれない。でも、貴女は目を醒ましてくれると信じていましたし」
ゴクン、と鳴った生唾を呑む音は この距離では横山に聞こえているだろう。
「万が一奴に囚われたままなら、力尽くでも貴女を助け出すつもりでした。それは信じてください。あんな男に、大切な貴女を」
横山が突然口をつぐんだ。
〝大切な志織さん〟
司くんに何度も囁かれたセリフ。
その度に喜んだり恥ずかしがったり、司くんはそんな私の様子を してやったりとほくそ笑んでいたに違いない。
今、横山が私に語っている言葉も 所詮は上司という立場上の綺麗事。
誤解してはいけない。
…誤解って…?
横山の懸命な説明に、私を捉えたままの瞳の奥に、一瞬でも何を期待した?
懲りないな、私も。
その証拠に、言葉の先を言わず黙ってしまった横山は司くんとは違って、私を良い気分にさせる無駄なセリフは言わないんだ。
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